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(第1回)「ハイブリッドとうごうシリーズ」の優位性

はじめに

さて、初回は水稲研の看板品種「ハイブリッドとうごうシリーズ」という品種について紹介していくぞ。
この品種群は、コシヒカリの改良系統を片親にした、現時点で、日本国内で唯一普及しているF1品種じゃ。

F1? ハイブリッド? なんだか車の話みたいね。

自殖作物である栽培イネは、雌しべに、同じく自分の花の中にある雄しべについた花粉を掛けて受粉させ、栽培用の種を取ることは知ってるの。
それに対して、ハイブリッド品種は、母親系統の雌しべに隣に植えた父親系統の花粉を掛けて栽培用の種とするんじゃよ。
ちなみにF1は「1st filial generation」の略じゃから、つまりF1ハイブリッドとは「雑種第1代」という意味じゃ。

へー、そうなんですね。
だけど、なんでそんな面倒くさいことをするんだろ?

「雑種強勢現象」と言うんじゃが、F1種は植物体が親系統と比べて大きくなり、多収性を実現できるからじゃ。
ほら、この穂の大きさの違いを見てご覧。

えー!
こんな大きな穂は、今まで見たことないなー。

株の中で一番大きな穂を抜いてきたから、300粒以上は付いておるじゃろう。
穂の大きさだけでなく、1つ1つの粒も20%くらいは大きくなっておるぞ。
他の大穂性の品種のように、株あたりの穂数が少なくなるようなこともない。
それが、この品種群が「超多収性」を実現できる理由じゃな。

ただ、ここまで来ると奇形っていうか・・・。
F1種って、食べて危険なものじゃないの?

詳しい説明は別のコラムに譲るが、自殖品種と同じように育成した親系統どうしを掛け合わせたものじゃ。
遺伝子組換えやゲノム編集のような、まだ日本で広く普及に至っていない技術とは別じゃぞ。
母親系統の花粉を作らせなくするためには、食用にされているインディカ種の細胞質を、交配で導入することで実現しているんじゃ。
多収性が最重要課題となっている中国ではF1種の方がメジャーと言われておるし、日本でもトウモロコシや野菜はほぼF1種の形で流通しておるんじゃ。

安全でたくさん穫れる品種かぁ。
俄然、興味が湧いてきたぞ〜。

1-a. 超多収性

まずは、「超多収性」の説明ね。

うむ。
この品種が多収になる要因は先ほど説明したとおりじゃが、これまでの最高記録は、2015度年に山形県で記録されたハイブリッドとうごう4号の1005kg/10aじゃ。
管理された試験場内の収量ではなく、コンバインで収穫し、JAのカントリーエレベーターで調製したグレーダー選別を経た実収じゃよ。
川の氾濫原に位置するよく肥えた田んぼで、最後は倒伏したようだがの。
これは極端な例じゃが、例年850kg-900kg/10aの多収記録が、東北地方を中心とした早生品種、および、西日本中心に展開している晩生品種のそれぞれにおいて、コンスタントに確認されておる。
うまくつくれば、北海道と沖縄を除くどの産地でも、反収で14俵超えが可能じゃな。

日本の平均反収が8俵と半分だから、それが実現すれば165%の増収ということになるのね。

それから、このグラフは、新聞に掲載されたデータをもとに作図したものじゃ。
2019年度の茨城県内の多収記録の表彰制度で、実収データが公表されておる。
飼料用部門では多収品種として流通している自殖品種3つが、輸出用部門ではいずれも「ハイブリッドとうごう3号」がトップ3に入っているが、注目すべきはその収量の差じゃな。

ハイブリッドとうごう3号の値が随分と高いなぁ。

収量性は、産地との相性や作り方によって変わるものじゃから一概に言えるものではないぞ。
ただ、輸出用として作られたとは言え主食用品種であるとうごうシリーズが、飼料用多収穫品種同等以上の収量ポテンシャルを備えていると言って間違いはないじゃろうな。
また、余談じゃが、中国のハイブリッドライスでは、籾収量で18.5t/haという情報もあるわい。
精玄米に換算しても悠に1,200kg/10aは超えるじゃろうな。
特別の環境で育てた長粒種の話じゃによって直接比較はできぬが、ハイブリッドライスのポテンシャルを理解することはできるじゃろう。

「雑種強勢」恐るべしね・・・。

ただし、この品種を使えばだれでも14俵の反収が得られるということではないぞ。
ポイントを抑えた栽培が大事じゃ。
これについては、後ほど説明をすることにしよう。

1-b. 選べる熟期

みのりくんは、1つの品種を日本全国で実用的に作ることはできない、ってことは知っているかな?

え、そうなんですか?
でも確かに、北海道や青森産のコシヒカリって、聞いたことがない気がする。
高く売れるんだから、作ればいいのに。

これこれ。
北海道でコシヒカリを栽培すると、出穂が9月以降になって、登熟途中で冬になってしまうよ。
反対に、コシヒカリを沖縄で栽培すると、植物体が十分に大きくなる前に穂をつけてしまって、収穫量が極端に少なくなるんじゃ。

栄養生長から生殖生長に入るタイミングを決めるスイッチが、品種によって違うってことかしら?

そうじゃな。
そのタイミングを決める重要な要因の1つが日の長さで、短日作物のイネは、日が短くなることで秋が来たことを察知して、穂をつけるようになる。
夏の日が長い高緯度地方と短い低緯度地方において、ぞれぞれちょうどよいタイミングで出穂させるには、スイッチとなる遺伝的要因を修正してあげる必要があるのじゃ。

そんなことって、簡単にできるんですか?

イネの研究者が長年かけて研究を重ねてくれたおかげで、今では比較的簡単にできるようになっておる。
現時点で実用品種を作る場合、DNAマーカー育種法という技術を用いて品種改良を行うことになるの。
とうごうシリーズの場合、そうした改良を施していない晩生品種群に加えて、日の長さを感じにくくする改良を加えた早生品種群を揃えてある。
東北地方で作付けしても、夏の長い日長に惑わされずに一定の大きさになると穂をつけてくれることから、冬になる前にちゃんと収穫ができるって寸法じゃ。
この2つの品種群があるおかげで、ハイブリッドとうごうシリーズは北海道を除く国内のどこでも栽培が可能なのじゃ。
ちなみに、年中日が短い沖縄県で、コシヒカリではなく、ひとめぼれのような東北北部の品種が栽培に適している理由も、同じと言ってよいであろうな。

そう考えると、いろいろ納得がいきますね。

熟期にバリエーションがあるということは、より広い産地で栽培ができ以外にも嬉しいことがあるぞ。
例えば、その産地でメインになる品種の熟期と異なるとうごうシリーズを選んで使用することで、両品種を作付けする際の作業労力の分散が可能じゃ。
地域によっては、とうごうシリーズだけで、一連の作期を揃えることだってできる。
この多収品種の使い方を、全国の生産者に、是非工夫してもらいたいものじゃ。

1-c. 選べる食味

みのりくんは、柔らかめとかため、どちらのご飯が好きかな?

私は、炊きたてのお米なら何でも好きです。
いつも、つい食べ過ぎちゃう。
でも強いて言えば、少し硬めのあっさり系かな。
いね爺は?

ワシは、柔らかければ柔らかいほど好きじゃな。ミルキークイーンでも物足りないくらいかのう。
このように、同じおコメでも人によって好みがあることは、理解できるじゃろう。
加えて、おコメの使い方によっても、求められるテクスチャーは異なるのじゃ。
例えば、炊飯後に低温保管される中食用の場合は柔らかく粘りのあるおコメ、反対にライン炊飯で使う場合は、設備におコメがこびりつきにくい硬めのおコメが求められる。
もちろん米粉用だと更に硬いおコメ、おこわにはもち米など、たくさんのニーズがあるのじゃ。

おコメは色んな形で食べられているからね。
でも、すべての用途に万能なおコメって作れないのかしら?

それはいかにワシでも、難しいなぁ。
でも、それぞれの用途ごとに、適性のある品種を用意しておくことはできるぞ。
ハイブリッドとうごうシリーズは、まさにその形でバリエーションを揃えてある。

そんな事もできるのね!
私のお客さんにも教えてあげたいな。

おコメの主成分のデンプンには、アミロースとアミロペクチンの2種類が存在することは、みのりくんも知っている思うが、ざっくりと言ってしまえば、このアミロースの量によって、炊飯米のテクスチャ−は決まってしまうのじゃ。
アミロースが全くなければもっちもちの糯、通常よりすくなければ低アミロースの半糯、通常のウルチ、そして、たくさん含まれていれば、長粒種にしばしば見られるパサパサの高アミロース米になる。
つまり、このアミロースを作る酵素(顆粒結合性デンプン合成酵素)にはパワーが異なるものがいくつか知られていて、どのくらいのパワーの酵素をもたせるかによって、その育成する品種のおコメのテクスチャーをデザインすることができるんじゃよ。

すごい!
これもさっきのDNAマーカー育種法なの?

そうじゃよ。
未発売のものを含め、ハイブリッドとうごうシリーズでは、7種類のテクスチャーが異なる品種が作られておる。
現在は、このうち最もニーズのあるうるち米と弱半糯品種を普及させているところじゃ。
そもそも片親はコシヒカリの改良系統だから、良食味の血統も十分に受け継いでおるしの。

ミルキークイーンなど、半糯品種は有名ね。
でも、弱半糯品種って何かしら?

片方の親系統にだけ、ミルキークイーンの半糯遺伝子であるWx-mq遺伝子を導入した品種じゃよ。
F1品種を収穫した玄米は、メンデルの遺伝の法則に従い4種類の遺伝子型に分離することになるんじゃが、それらの精米が混合されて食される場合、コシヒカリとミルキークイーンの中間的な炊飯米テクスチャーとなるんじゃ。
半糯品種に見られるような強い糯臭もせず、炊飯後の経時劣化が極めて遅く、レンジアップした際の食味は一般のうるち米と比較して明らかに優れることは、ワシの方で確認済みじゃ。
昔からハイブリッドライスはまずいとされてきたが、この品種の食味官能試験では、同じ場所で栽培したコシヒカリより優れたものという結果が得られておる。

たくさん収穫できるだけでなく、おコメの用途に応じて品種を選べ、しかも美味しいのね。
他には面白い品種はないの?

今年度より試験的にリリースする糯品種がうまくいくかもしれん。
14俵穫れる糯品種なんて、魅力的じゃろう?
ワシが食べた感じだと、同じ場所で栽培した有名品種と比べても、味に対した違いはなかったしのう。
早く生産者の皆さんに、ご評価いただきたいものじゃ。

品種紹介_ハイブリッドとうごうシリーズの第1回目はここまでじゃ。
第2回目も楽しみにしていてもらえると、うれしいぞい。

○本日のまとめ

  • ハイブリッドとうごうシリーズは、国内で唯一のF1品種であり、DNAマーカー育種法で作り出された コシヒカリ改良系統を片親とする一連の品種群である。一般品種と比べて穂と粒が大きく、14俵を超える多収性が狙える超多収品種である。
  • 2つのバリエーションからお好みの熟期を選んで使用することができ、北海道を除く全国での栽培が可能な他、作期分散による労力軽減にも寄与する。
  • おコメの用途によって、テクスチャーの異なる品種を選定可能。特に弱半糯品種は、糯臭のしない低アミロース米で、コシヒカリを超える良食味を示す。

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